むつぬま雑学研究室新館

交通関連の考察記事を中心にいろいろ書いていきます。鉄道時々航空(予定)、2019年9月5日よりYahoo!ブログから移転。

33. 【中距離LCC立ち上げも】ANA、B777型22機を早期退役しコスト構造見直しへ

f:id:su62numa381:20201027163951p:plain

本日10月27日、ANA HDは感染症の影響で航空需要の「量」と「質」の変化が予想されることから、ANAグループのビジネス・モデルを変革させることを発表しました。発表された事業構造改革案は

  1. エアージャパンを母体に第3ブランドを立ち上げ、中距離LCCに進出
  2. プラットフォーム・ビジネスの具現化などにより非航空収益を拡大
  3. エアライン事業規模を一時的に縮小し、固定費を削減

の3項目を軸としており、本記事ではエアライン事業に関係する1と3を中心に詳しく見ていきましょう。

ANA HDの公式発表はこちら

1. 2022年度を目途にB787型機を活用した中距離LCCを運航開始

f:id:su62numa381:20201027170454j:plain

近年のANAの成長を支えたのは紛れもなくB787型機である。

ANAグループには本体の全日本空輸ANA/NH)以外にもいくつか航空会社が存在し、その中の一つにエアージャパン(AJX/NQ)があります。エアージャパンは外国人パイロットを採用し本体から近~中距離国際線や貨物便の運航を受託していますが、今回の事業構造改革案ではこれを母体に第3ブランドを立ち上げることが発表されました。

新たに立ち上げられる第3ブランドは、300席級のANAで使用されているボーイング787型機を活用した中距離LCCとなる予定で、東南アジアや豪州のレジャー需要獲得を担うエアラインとして2022年度を目途に運航開始とされています。ANAグループのLCCとしては既にPeach Aviation(APJ/MM)がありますが、Peachが短距離路線中心にモノクラスの短通路機で運航するのに対し、第3ブランドは2クラスで運航するとされています。立ち位置的にはJALグループのZIPAIR Tokyo(TZP/ZG)に近いものとなり、FSC、短距離LCC、中距離LCCの3部門でANAグループとJALグループが競合することになりそうです(ただし、ZIPAIRは欧米などの長距離路線にも参入する意向なのでANAの第3ブランドとはあまり路線がかぶらない可能性もありますが)。

2. 顧客データなどを活用し非航空事業を強化

f:id:su62numa381:20201027174106j:plain

飛行機に搭乗するのにマイレージを登録しないのはもったいないものである。

 ANAを含め世界各国の大手の航空会社ではマイレージプログラムを実施していて、飛行機に搭乗すると距離や支払った金額(チケットの種別)などに応じてポイントがもらえるようになっています。ANAマイレージクラブはグループ会社のANA Xによって運営され、マイレージプログラムなどを通じて集まった顧客データを活用した事業も行われています。今回の事業構造改革案では、旅行事業をANA Xと統合させてプラットフォーム事業会社へと再編することなどが発表され、エアライン事業、旅行事業、ANAカード事業を中核にプラットフォーム・ビジネスを具現化するとされています。

3. 機材数を削減し一時的にエアライン事業規模を縮小

f:id:su62numa381:20201027182129j:plain

グループ全体で300機ほど保有するが、1割程度削減される。

現在は各国における出入国規制の影響もあり国際線は多くが運休しており、国内線についても利用客は例年に比べて少ない状況が続いています。今年度(2021年3月期)はグループ全体で5100億円の赤字となる見込みであることも発表され、この危機を乗り切るためにはコスト削減は避けられない状況となっています。その一方で飛行機は飛ばないからといって何もせずほったらかしにしていいものではなく、いつでも飛べるように定期的に整備をする必要があります。そのため、収入は激減しているが支出は相変わらずであるのが現状であり、固定費を削減するためには飛行機の数を減らして路線の見直しをせざるを得なくなっています。今回の発表では、

  • A380型3号機の受領延期などにより、新規導入機材を16機→13機に削減
  • B777型機などを追加で早期退役させ、退役機材を7機→35機に追加
  • Peachでも機材計画を見直し、グループ全体で当初計画から33機削減

とされています。これに合わせ、ANAの国際線は羽田便を優先して運航を再開し、国内線では機材の小型化やPeachとの路線分担を進める計画となっています。

ANAでは4月時点では以下のように機材を導入・退役させる計画となっていました(参考)。

導入機材(13機)
  • A380型×1機
  • B787-9型×5機→順次導入中
  • A321neo型×7機→順次導入中
退役機材(9機)
  • B777-200型×1機→JA706Aが退役済み
  • B767-300型×1機→JA8342が退役済み
  • B767-300BCF型×1機
  • B737-700型×3機
  • B737-500型×3機→JA305K、JA306K、JA307Kが退役済み

この計画が後に16機導入、7機退役に変更され今回改めて13機導入、35機退役に変更されたものと考えられます。今回受領延期となった3機の中にはA380型1機とともにB777型1機も含まれており、これは今後のフラッグシップ機となるB777-9X型機であると考えられます。また、今回早期退役が決まった28機のうち、22機は大型機であるB777型機とされています。ニュース記事には内訳も記載されており、以下のようになっています。

www.aviationwire.jp

  • B777-300ER型×13機
  • B777-300型×2機
  • B777-200/-200ER型×8機(1機退役済み)
  • B767-300/-300ER型×6機(1機退役済み)
  • B737-700型×4機
  • B737-500型×2機(退役済み、JA305Kは昨年度分としてカウント?)
  • B767-300BCF型機は退役なし?)

ANAB777は-200、-200ER、-300の3タイプが国内幹線で、-300ERがフラッグシップ機として長距離国際線で使用されています。現在は国内線用のB777-200型機(以降-200ERを含む)と国際線用のB777-300ERの一部で新シートの導入が進む一方、今後後継機として国内線用B787-10型機を11機、国際線用B777-9X型機を20機導入する計画となっています。そのため、後継機が来るまで需要が戻らないと判断して置き換え予定分を先行して退役させることが考えられます。ここからは、各タイプごとに現状を見ていきましょう。

B777-300ER型機(28機在籍→12機新シート導入、13機退役予定)

f:id:su62numa381:20201027224146j:plain

初号機のJA731Aはスターアライアンス塗装で異彩を放つ。

B777-300ER型機は羽田・成田~欧米主要都市といった長距離国際線で使用される現在のフラッグシップ機です。現時点でJA731A~JA736A、JA777A~JA798Aの28機が在籍しています。いずれの機材もファーストクラスを8席、プレミアムエコノミーを24席有しますが、ビジネスクラスやエコノミークラスの割り当ては機材によって異なり、264席、250席、212席、新212席の4種類が存在します。政府専用機の整備も考慮して2019年に追加導入されたJA793A~JA798Aの6機は最初から新212席仕様で、個室タイプのビジネスクラス座席「THE Room」を備えています。

www.ana.co.jp現在は在来機の改修も進められ、最終的に12機が新212席仕様とされる計画です。改修状況を考慮すると2010年に導入され比較的新しいJA784A~JA789Aが該当すると考えられます(JA790A~JA792Aはリース導入のため対象外?)。それより古いJA783Aまでの機数が今回発表された退役予定と同じ13機であり、そのためJA783Aまでが退役の可能性が高いと考えられます。ANAでは今後後継機のB777-9X型が20機導入される予定があり、置き換えられる分を前倒しで退役させ、需要の戻りに合わせてB777-9X型機を入れていくことが予想されます。

B777-300型機(7機在籍→2機退役予定)

f:id:su62numa381:20201027224404j:plain

圧巻の514席で羽田~那覇線が主な活躍の場だった。

B777-300型機は国内線の主要路線で使用される機材です。座席数は圧巻の514席(プレミアムクラス21席、普通席493席)を誇り、特に羽田~那覇線では修学旅行など団体利用が入った際に威力を発揮します。ですがここ最近は稼働率が非常に低くなり、完全に持て余してしまっている感があります。7機中5機が導入から20年を超え、B777-200型機とは異なり新シート導入の予定もないことから7機全ての退役もあり得ると考えていましたが、意外にも退役予定は2機のみとなりました。2022年度からは後継機の国内線仕様B787-10型機が入る予定であり、残存しても見られる機会は意外と少ないかもしれません。

B777-200型機(19機在籍→8機新シート導入、7機退役予定)

f:id:su62numa381:20201027201636j:plain

羽田~主要都市の主力機材だったB777-200型機。

B777-200型機は国内主要路線で用いられる機材であり、少し前までは羽田空港に行けばたくさん見られる機材でしたが、ここ最近は小型化で仕事が減っているように感じます。厳密には航続距離を延長した-200ERもいますが、現在は-200ERも国内線仕様となっているため、まとめて扱います。今年度に入ってJA706Aが退役し、現時点でJA702A、JA704A、JA705A、JA707A~JA717A、JA741A~JA745Aの19機が在籍しています(うちJA707A~JA710AとJA715A以降は-200ER)。これまでプレミアムクラス21席、普通席384席の合計405席となっていましたが、現在新シート導入が進められ、導入された機材ではプレミアムクラス28席、普通席364席の合計392席となっています。導入対象は8機とされており、現在の導入状況から考えると比較的新しいJA715A以降に導入されることが見込まれます。となればJA714Aまでの11機はそう遠くないうちに置き換えが予定されていることが考えられ、早期退役の対象は7機なのでJA710Aまでが含まれていると見て良いでしょう。

www.aviationwire.jp

B767-300/-300ER型機(23機在籍→5機退役予定)

f:id:su62numa381:20201027224654j:plain

JA8971はANAの全旅客機で最古参かつ最後のJA8000番台である。

B767-300/-300ER型機はANAの国内線ではプレミアムクラス10席、普通席260席の合計270席となっており、B777型機が主力の主要路線では小さめの機材として、単通路機が主力の地方路線では大きめの機材としてといったように幅広い路線で使用されています。今年度に入って最後の非ER型のJA8342が退役し、現時点でJA8971、JA604A~JA611A、JA614A~JA627Aの23機が在籍しています(JA601A、JA602A、JA612A、JA613Aはエア・ドゥに移籍、JA603Aは貨物機に改修)。このうちJA619A以降の9機はウィングレット付きの国際線仕様(ビジネスクラス35席、エコノミークラス167席の合計202席)となっています(導入経緯から一部では「詫び767」と呼ばれることもあるとか)。今回は5機が退役対象となりましたが、最古参のJA8971(1997年導入)は別としてJA604A~JA611Aはいずれも2002~2003年導入と年の差がほとんどなく、どの機体が退役するかは予想が難しいところです。過去に退役したER型には貨物機に改修された機体もありますが、まさかの改修再開とかもあるのでしょうか...?

B737-700型機(8機在籍→4機退役予定)

f:id:su62numa381:20201027224923j:plain

初号機のJA01ANはモノクラスでエア・ドゥからの出戻り機である。

B737-700型機は現在ANAに在籍するジェット旅客機では最も座席数が少ない機材となります。基本的にプレミアムクラス8席、普通席112席の合計120席ですが、エア・ドゥに移籍した後ANAに出戻りしたJA01ANのみ普通席のみ144席となっています。2005年から導入され、当時は国内線から近距離国際線までANAの小型機をこれで統一することも考えられていたようです。しかし小さすぎと判断されたのか導入は16機で打ち切られ残りはB737-800型機に変更、さらに9機がエア・ドゥへ移籍(前述の通り後に1機出戻り)、近年はA320neo型機の導入で国際線運用から完全に外されるなど少数派ゆえに安定した活躍の場が見つからない状況が続いています。国内線専属になっても機内Wi-Fiが搭載されなかったため、近々何らかの動きがあるのではと見られていましたが、最近はA320neo型機が国内線の応援に入っていることもありいよいよそのときが来たと見て良いでしょう。導入年が近い機体が多く、別仕様のJA01ANを除けばどの機体が退役対象になるかは予想が難しいところです。

今回はここまでです。本ブログ初めての航空関連記事でしたが、いかがでしたか?