むつぬま雑学研究室新館

交通関連の考察記事を中心にいろいろ書いていきます。鉄道時々航空(予定)、2019年9月5日よりYahoo!ブログから移転。

29. 【2両編成なのに】熊本市電、女性専用車両試験導入へ...

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昨日9月1日、熊本市交通局は9月14日~12月28日の予定で平日朝時間帯に運転される路面電車の一部に「女性専用車両」を試験導入すると発表しました。路面電車における女性専用車両の導入は少なくとも国内では例を見ないものであり、筆者自身の女性専用車両に対する考えも交えながらいろいろと考えていきます。

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1. 実施対象は平日朝の2両編成後方車両

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熊本市電には単行車両もあるが、今回は2両編成のみ対象となる。

熊本市電とは熊本市交通局が運営している路面電車の通称で、現在は熊本駅前に乗り入れるA系統と上熊本に乗り入れるB系統の2系統で運転され、運賃は170円均一となっています。昭和時代に製造された車両から最新型まで多彩な車両を保有し、日本初の営業用VVVFインバータ制御車両である8200形(1982年運転開始)や日本初の超低床路面電車である9700形(1997年運転開始)など、「日本初」が多いのも特徴です。そんな熊本市電においてこれまた日本初となる路面電車における女性専用車両の試験導入が今回決まったわけですが、その概要は以下の通りとなっています。

  • 2020年9月14日~12月28日の平日朝7時頃~9時頃に実施
  • 2両編成低床車両で運転される電車の進行方向後ろの車両が対象
    (上下線で別車両となるため、両方の車両に案内貼り付け?)
  • 実施本数は両系統の上下線合計で8本(詳細なダイヤはこちら
  • 小学生以下と障がい者、介助者は男女問わず乗車可
    (それ以外についても任意協力での実施)

現在実施している他の事業者の多くと同様に実施時間帯は平日朝となりますが、実施対象を限定している点と上下線で実施車両が変わることがポイントとなっています。前者は京成電鉄京急電鉄など、後者は半蔵門線や都営新宿線でも見られますが、路面電車ということもあるのかかなり特殊な内容となっています。実施されている路線の中には乗車率が非常に高い路線も多く、今回実施される熊本市電においても一部の時間帯で乗車率が120%程度まで達するなど、ある程度は混雑しています。

2. そもそも女性専用車両はいつから始まった?

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現在ある女性専用車両を初めて導入したのは京王電鉄である。

日本国内で最初に導入された女性専用車両は、明治末期に当時の東京府内の女学生向けに中央線で運行されたものとされています。その後、昭和時代にも中央線や京浜東北線で「婦人子供専用車」なる名前で導入されたことがあります。当時は現在よりも混雑が激しく、また働く女性の数自体も少なかったことも導入の背景にあると考えられます。その後、「婦人子供専用車」は「シルバーシート」と入れ替わりで運行を終了しました。

現在の形で初めて導入されたのは、2000年12月に試験導入(2001年3月に本格導入)した京王電鉄となります。当初は深夜時間帯のみで、次いで導入されたJR埼京線についても同様でしたが、首都圏で3番目に導入した横浜市営地下鉄が首都圏初の朝ラッシュ時での実施となりました。この間にも関西圏では首都圏より先行して導入が進み、阪急電鉄など終日実施する事業者も出てきています。そして首都圏でも2005年5月に大手私鉄9社で朝ラッシュ時に一斉導入され、その後JR線や地下鉄直通にも拡大しています。

2020年9月現在、国内で女性専用車両を実施しているのはJR2社(東日本・西日本)、大手私鉄15社(名鉄を除く全社)、地下鉄6都市(仙台・京都・福岡は未導入)、それらの直通運転相手を含む一部の中小私鉄となっています。首都圏・関西圏では多くの主要路線で実施されていますが、名古屋・福岡・札幌ではいずれも1事業者のみが実施しています。

3. 朝時間帯2両編成での実施はこれまでに例を見ないが...

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首都圏では6両編成が実施最短編成で、横浜市営地下鉄などが該当する。

首都圏に住んでいると女性専用車両のステッカーが貼られた電車を見かけることは日常茶飯事ですが、大体が10両編成の片側先頭車とかで一番短いところでも6両編成での実施となっています。実施時間帯は多くが平日朝のみで、一部路線で夕方や深夜も実施している状況となっています。それに対し関西圏などでは首都圏より短めの6~8両編成で実施しているところが多く、神戸電鉄神戸市営地下鉄海岸線では現時点で全国最短となる4両編成での実施となっています。また実施時間帯も関東圏より長めであり、神戸電鉄では早朝を除く平日終日、神戸市営地下鉄では毎日終日となっています。

それに対して今回の熊本市電に関しては2両編成への導入という試験導入とはいえ非常にまれなものとなっています。かつて香川県高松琴平電気鉄道では年末の深夜増発列車で2両編成への導入をしたことがありますが、ごく一時期で終了していることもありあまり知られていません。その際の状況がどうだったかについてはよく分かりませんが、それなりに混雑している朝時間帯となるとさすがに厳しいのではないでしょうか。

4. 本格導入・見直しはされるのか?

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東京メトロ東西線では導入から1週間強で実施区間が短縮された。

今回発表されたのはあくまでも年内の試験導入ですが、他社の事例を見る限り本格導入がされる可能性は非常に高いでしょう。また、本格導入される場合対象列車の拡大がされるかどうかも注目されます。仮に単行車両も含めた全ての電車に導入となると、実施時間中は大半の電車に女性しか乗車できないという不便極まりない状況になりかねません。そのため、単行車両に導入があるとしても夜行バスの女性専用便みたく続行運転になるのではないかと考えられます。

一方で利用者からの反発により実施区間や時間帯を見直した例もあります。2006年11月に女性専用車両を導入した東京メトロ東西線では、当初中野方面行きで中野までの全区間において先頭車両10号車での実施とされました。しかし、東京メトロの地下駅では両先頭車付近に階段がある駅が多く、東西線においては特に大手町から西の区間に10号車が便利な駅が非常に多かったため混雑の原因となりました。そのため導入からすぐに大手町で実施を終了することが決定し、現在に至ります。この他に当初首都圏で唯一終日実施された東急東横線女性専用車両についても、実施号車が不適切であったことや利用状況を鑑みて1年ほどで実施号車の変更と実施時間帯の短縮となっています(その後副都心線直通のため再変更)。

5. 女性専用車両に対する筆者の考え

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中央線快速はグリーン車導入で見直しもあり得るのだろうか?

最後に、筆者が女性専用車両についてどう考えているかを説明して終わりたいと思います。この記事を読んでいる皆様の参考になれば幸いです。

5-1. 女性専用車両は現代の情勢には適合しない

ここ最近、性別に縛られない生き方をする人も増え続け、男らしい・女らしいというのが何なのかの議論もされています。女性の社会進出が進むとともに、逆に従来ほとんどが女性で占められていた職業に男性が進出することも珍しくありません。そのような中で、男女を明確に区別してさらに一方だけを優遇するというのはおかしいことだと感じます。もちろん場合によっては個別の事情もありますが(例を挙げると、食べ放題のお店で平均的な食べる量を理由に女性を男性より安くするなど)、これが理由で選ばれなかったとしても自己責任ですし、まして客を選ぶのは不適切な公共交通機関でそれをやるのはどうかと思います。また、当初の目的と言われた迷惑行為対策としても、他の車両には何も起こらない以上限定的なものになると言わざるを得ません。最近は照明に防犯カメラが付いた車両が増えていますが、その方が全ての車両に等しく効果があるという点でいいと思います。

5-2. かといって男性専用車両と並立で設けるのも反対

女性専用車両関連のニュースのコメントを見ると、男性専用車両の導入を求める意見も少なくありません。ですが、自分はそれもおかしいと考えます。公共交通機関は1人で利用するとは限らず、中には女の子を連れた父親、男の子を連れた母親、お互い助け合いが必要な高齢の夫婦などもいますし、そのような人たちに別の車両に乗ることを強制するのは余りにもひどすぎると思います。所定の運賃や料金を払えばどんな人でも乗れるのが公共交通機関、特に日常生活に欠かせない通勤電車や路線バスにおいては重要です。

5-3. 名前を変更するなどであらゆる利用者に配慮できるのならあり

国内の通勤電車において、女性専用車両が任意協力ではなく法や規則で定められたものであるところは一つもなく、さらに多くの事業者が建前上は児童や障がい者、介助者については男女問わず乗車できることを明言しています。ですが自分が見た限りでは女性専用車両の乗車口に小学生や車いす利用者も含め男性と思しき人が並んでいるのを見かけたことは滅多にありません。また、関西圏などの事業者においては首都圏の事業者に比べて周知が遅れ、中には何かと理由を付けて未だに単独乗車を認めていない事業者も存在するのが事実です。特に車いす利用者など乗れる場所が限られる人がいますし、そのような人々が利用しやすくすることも重要だと思います。女性だから、男性だからではなく本当に配慮すべき利用者は誰なのか考え、その人たちに対する(専用ではなく)優先車両とするのであれば特に反対はしません。

5-4. 安全かつ快適に利用する方法は他にもある

数年の間に多くの事業者が導入した2000年代半ばとは異なり、ここ10年ほどは女性専用車両を新たに導入する事業者や路線はそこまで多くありません。首都圏において現時点で最後に完全新規での導入をしたのは2010年4月の京浜東北根岸線であり、その後はダイヤ改正に伴うある程度の拡大縮小はあれど実施路線自体に大きな変化はありません。最近導入が増えているのは、座席指定制のライナー列車です。2008年6月に運転を開始した東武東上線TJライナー」を皮切りに各地で新たな列車が設定され、既存の有料特急がある路線においても通勤通学での利用を取り込む方向に動いています。さらに2019年3月には編成の都合で女性専用車両の導入を見送っていたJR京都線JR神戸線の新快速に女性専用車両ではなく有料座席車両の「Aシート」が導入されました。区間や列車にもよりますが500円程度の料金を払えば確実に座れることから、混雑にもまれることなく安全かつ快適に移動することができます。さらに乗り換え不要で速達性も付属することから、ある程度の距離を移動する客の人気を集めています。このような列車を利用できる場合は利用したり、逆に少し時間がかかっても混雑率の低い路線や種別を利用する、当駅始発が多い駅なら並んで着席するなどで工夫するのも方法の一つではないでしょうか。

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平日朝の小田急ロマンスカーは沿線の通勤客から根強い人気がある。

今回は久しぶりの更新でいつもより長くなりましたが、次回もまたお願いします。